再就職で年金が減額されることがあります。
特に退職後1ヵ月以内に再就職した場合は想定額を大きく下回る場合があります。
年金をもらえる年齢で退職したら再就職後の給料は低くても暮らしてゆける。
そう考えて年金が支給停止されない給料設定で再就職したのに、年金の決定通知を見てびっくり。
想定してた額の半分程度のことも・・・。
理由は
退職から1ヵ月以内に再就職すると前職の給料をもとに年金が算出される
からです。
でも後で再就職後の給料で再計算されて、年金額は改定されますからご安心ください。
ここでは年金をもらうときになって慌てないで済むように、再就職で年金が減額される場合があることを年金の算定メカニズムと減額メカニズムを元に解説してゆきます。
年金算定のメカニズム
はじめに年金の構造を見ておきましょう。
下の図のように3階層となっています。
年金の構造
① | 老齢基礎年金 | |
② | 老齢厚生年金 | |
④ | 報酬比例 | |
⑤ | 差額加算 | |
⑥ | 繰上・繰下げ額 | |
③ | 基金代行額 |
もらえる年金額は次のように3つの合計となります。
老齢年金額 = ①老齢基礎年金 + ②老齢厚生年金 + ③基金代行額
そして年金の月額はこれを12で割った額となります。
ここで、老齢厚生年金の内訳は報酬比例部分+差額加算+繰上・繰下げ額 となっていることを覚えておいてください。
後でご説明する年金の支給停止の算定に関係してくるからです。
用語が分かりにくいと思いますのでまとめておきますね。
差額加算
経過的加算とも言われ、昭和61年4月に老齢基礎年金制度ができる前後の差額を埋めるため設けられたもので、改定前の年金額より少なくなる分を補うものです。
生年月日によって対象となる人、ならない人があります。
対象となるのは次の人です。
・男性の場合、昭和36年4月1日以前に生まれたこと
・女性の場合、昭和41年4月1日以前に生まれたこと
基金代行額
企業年金に加入していた場合に日本年金機構が代行して老齢基礎年金と老齢厚生年金に加算して支給するものです。
繰上・繰下げ額 年金は、65歳で支給開始となりますが、62歳に達したら申請すれば繰上げて支給してもらうことができます。これを繰り上げ受給と言いますが、繰り上げ1ヵ月ごとに0.4%が減額されます。 逆に65歳に達してもすぐにもらわずに受給開始を遅らせることもでき、これを繰下げ受給と言います。この場合は繰下げ1ヵ月ごとに0.7%が加算されます。
よろしければこちらもご参照ください。
年金・繰り下げ受給の損益分岐点は何年 ? もらわないと損 ?
在職中の年金は毎年9月に改定される
上でご説明した年金は、働いていれば毎年9月に1改定が行われます。
働いていれば厚生年金保険料を払い続けるわけですから、当然受け取る年金額も増加するのです。
基準日である毎年9月1日に厚生年金保険の被保険者であれば、翌月10月分の年金から改定されます。
年金の支給停止のメカニズム
支給停止額の算定ポイントは、
支給停止額の算定対象は老齢厚生年金のうちの報酬比例部分と基金代行額
だけということです。
老齢基礎年金と厚生年金の差額加算、繰上・繰下げ額は対象とならないのです。
上の図の④+③を12で割った1ヵ月当たりの額に総報酬月額相当額を足した額が48万円を超えなければ支給停止はありません。
48万円を超える場合は次の式で求めた額が年金から差し引かれます。
支給停止額
= ((④ + ③) ÷ 12 + 総報酬月額相当額 - 48万円) × 1/2
なお、総報酬月額相当額とは
月給(標準報酬月額)に、直近1年間の賞与を12で割った額を足した額
を言います。
退職後1ヵ月以内で再就職は年金減額 ?
注意すべきは退職後1ヵ月以内で再就職した場合です。
次の2つの理由からもらえる年金額が想定していた額より大幅に低くなることがあるのです。
- 年金の算定基礎として前職の総報酬月額相当額が用いられる
- 厚生期間として退職前年の9月に算定された月数が用いられる
退職して1ヵ月以内に再就職すると、総報酬月額相当額として前職のものが用いられます。
そのため、前職の給料が高かった場合は、支給停止が発生することがあるのです。
また、厚生期間(厚生年金の被保険者であった期間)は退職前の9月に算定された月数が用いられるので、年金額は再就職しなかった場合の期間より少なくなってしまいます。
ただし、再就職後1ヵ月後には再就職先の給料をもとに再計算されて年金支給額が見直されます。
そして、再就職先の給料が年金の支給停止条件より低ければ停止はありません。
それでも再就職後の最初の1ヵ月分は前職の給料による停止額が差し引かれてしまい、後から補填はされません。
あくまでも
再就職によって収入が変わってから1ヵ月後に年金に反映される
のです。
退職後、1ヵ月以上再就職しなければ想定した満額がもらえます。
でも、再就職によってもらう給料がないわけですから、トータルで考えれば間を空けずに再就職した方が受け取るお金は多くなると言えます。
支給停止有無の試算例
ではここで、支給停止が無く満額支給される場合と支給停止がある場合の具体例をご参考までに掲載しておきますね。
なお、単純化のため、老齢厚生年金は報酬部比例分のみで、繰上・繰り下げの影響はないものとし、基金代行額もないものと想定しておきます。
満額支給の場合
条件を次のように想定します。
- 年金の月額が18万円
- 再就職後の給料が月額16万5,000円で賞与無し
標準報酬月額は17万円、総報酬月額相当額も17万円となります。
18万円 + 17万円 = 35万円
48万円以下なので年金は満額支給の18万円となります。
一部支給停止の場合
今度は条件を次のように想定します。
年金の月額は先の例と同じですが、再就職後給料と賞与を変えた想定です。
- 年金の月額が18万円
- 再就職後の給料が月額35万円で賞与が年間120万円
標準報酬月額は36万円となります。
総報酬月額相当額 = 36万円 + 120万円 ÷ 12 = 46万円
18万円 + 46万円 = 64万円
48万円を超えるので次の額が支給停止となります。
支給停止額(月額)
= (年金の基本月額 + 総報酬月額相当額 - 48万円) × 1/2
= (18万円 + 46万円 - 48万円) × 1/2
= 16万円 × 1/2
= 8万円
この場合はもらえる年金額は18万円から8万円を差し引かれた10万円となります。
おわりに
いかがでしたか?
退職してすぐに再就職した場合一時的に年金が減ってしまう理由を年金の構造と支給停止のメカニズムからご説明してきましたが、参考になりましたでしょうか ?
年金の構造と支給停止のメカニズムが分かると再就職したときの年金の支給停止の有無と額がすっきり分かりますので、是非覚えておいてくださいね。
最後までお読みくださってありがとうございました。