派遣先や派遣元がやむなく休業。
はたして派遣社員は休業手当をもらえるのか ?
答えは、「派遣社員も休業手当をもらえる。」です。
ただし条件があります。
ここでは、派遣社員が休業手当をもらえるケース、もらえないケースについて、派遣会社の責任との関連で解説してゆきます。
また、有給休暇との関係についてもお伝えしますよ。
はじめにお断りしておきますが、ここでいう派遣社員とは、登録型派遣で働いている人を対象としています。
常用型派遣は一般の社員と同じですので。
休業手当とは
そもそも休業手当とは何でしょう ?
労働基準法第26条によって定められた、労働者を守るため制度です。
使用者(雇い主、つまり会社)の都合で休職させた場合は給与の6割以上を支払わなければならないという雇い主に課せられた義務です。
そして、労働者には、正社員や派遣社員、パート、アルバイトの区別はありません。
ですから、派遣社員も休業手当をもらうことができます。
計算方法
金額は、最近の3ヵ月(賃金締切日がある場合は直前の賃金締切日から3ヵ月)の給料の平均の60%以上と定められています。
もう少し詳しく説明しましょう。
ここでいう給料には、扶養手当、時間外手当、通勤手当、精皆勤手当などの諸手当を含み、年次有給休暇の賃金、昼食料補助等も含まれます。
一方、賞 与など3か月を超える期間ごとに支払われる賃金は含みません。
例えば次のような場合、
基本給 : 270,000円/月
扶養手当 : 6,000円/月
時間外手当 : ここ3ヵ月で、15,000円、5,000円、10,000円
通勤手当 : 10,000円/月
直近3ヵ月の平均は、
270,000円+6,000円+(15,000円+5,000円+10,000円)÷3+10,000円
= 296,000円
ですから、
休業手当は
296,000円×60% = 177,600円
これ以上が支払われることとなります。
では、「会社の都合」とは何でしょう。
一般的には次のことがあげられます。
・機械の故障、材料や燃料不足による休業
・運転資金の不足や経営難による休業
・生産過剰による操業短縮や停止
・監督官庁の勧告による操業停止
など。
なお、天災などの不可抗力による休業は会社の責任ではないので、休業手当をもらうことはできません。
以上のことを踏まえて、派遣社員が休業手当をもらえるケースともらえないケースについてご説明しましょう。
休業手当の額や期間などについてはこちらに詳しくまとめてありますのでご参照ください。
休業手当はパートやアルバイトも対象 ? もらえないときは ?
派遣社員が休業手当をもらえる場合
派遣社員が休業手当をもらえるのは、大きく次の2つのケースに分けられます。
・派遣先の都合で戻された
・派遣先が災害で休業した
順に見てゆきましょう。
派遣先の都合で戻された
派遣先の業績低迷などによって派遣を打ち切られた場合は、派遣元が次の派遣先を見つけなければなりません。
それができない場合は、6割以上の休業手当を支給する必要があります。
また、派遣先にも休業手当相当を派遣会社に払わなくてはなりません。
派遣先が災害で休業した
派遣先が災害などで休業してしまった場合はどうでしょう ?
先にご説明した「天災その他の不可抗力による場合」に該当するので休業手当はもらえないと思われるかもしれませんね。
でも、不可抗力にあったのは「派遣先」であって「派遣元」ではありません。
休業手当は雇い主、つまり派遣元が支払うものです。
ですから、派遣先が災害などで休業した場合は、派遣元は別な派遣先を探して契約期間中の仕事を与えるか、待機させた場合はその間の休業手当を払わなくてはなりません。
なお、派遣先の都合で戻された場合のところで少し触れましたが、派遣先にも負うべき責任がありますよ。
労働者派遣法 第29条の2に、派遣先が契約を解除する際に講ずべき措置として、
・新たな就業の機会の確保
・休業手当等の支払に要する費用を確保
が明記されています。
少し長いですが、引用しておきますね。
労働者派遣の役務の提供を受ける者は、その者の都合による労働者派遣契約の解除に当たっては、当該労働者派遣に係る派遣労働者の新たな就業の機会の確保、労働者派遣をする事業主による当該派遣労働者に対する休業手当等の支払に要する費用を確保するための当該費用の負担その他の当該派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講じなければならない。
出典 :
厚生労働省 「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」
ちなみに、労働者派遣法は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」が正式名ですよ。
なお、派遣先が新型コロナウィルスの影響で事業縮小となって派遣契約を解除された場合も、派遣先と派遣元の義務は派遣先が災害で休業した同様と解釈されます。
派遣元は安易に解雇するのではなく、休業させて休業手当を支払う必要があります。
そうは言っても派遣元が中小企業で資金がなくて休業手当を支払えないこともあり得ます。
そのために、国は雇用助成金の制度を用意しています。
もしも派遣会社が、「休業手当を払いたくてお金がない」と言ったら、「国に助成金を申請して払ってください」と。
また、派遣先も派遣会社に対して、休業手当の費用を負担する必要がありますし、これは派遣先が緊急事態宣言を受けて休業した場合にも当てはまります。
休業なのに有給休暇を取れと言われたら ?
新型コロナの影響で派遣先が休業したとき、休業手当を出さずに、「有給休暇を取るように」とから言われたという実例がありました。
平均給与の60%で済む休業手当を払う方が、賃金を100%払わなくてはならない有給休暇を取得させるより会社の負担は少ないのに、あえて有給休暇を取れと言った会社の意図は不明ですが・・・。会社としては助成金の申請が面倒だったのかも知れません。
でもこれは、違法です。
本人の意思に反して有給休暇を取らせてはいけないのです。
ただし、有給休暇なら100%の賃金が保証されるので、その方が助かると考えて本人が承諾すれば有給休暇とすることは差し支えないとされています。
有給休暇は「労働義務がある」日にそれを免除するものです。
なので、休業中の労働義務がない日には、本来有給休暇をとることはできないのです。
休業中に有給休暇にしてもらえるか
逆に、自分から望んで、休業手当より有給休暇にしてほしいと言ったら認められるでしょうか ?
会社は認める必要はありません。
理由は上の囲みのとおり、労働義務がない日に有給休暇をとることはできないからです。
では次に休業手当をもらえないケースを確認しましょう。
派遣社員が休業手当をもらえない場合
次の2つのケースがあります。
・本人に問題があって戻された
・派遣元が災害で休業した
順に見てゆきましょう。
本人に問題があって戻された
本人の勤務態度や能力に問題があって戻された場合は、休業手当はもらえません。
会社の都合ではないからです。
ただし、派遣元は本当に勤務態度が良くないのか、あるいは能力が低いのか派遣先と本人にヒアリングをして確かめる必要があります。
派遣先の一方的な言い分に従って派遣者を戻した場合は休業手当を支給する必要があります。
もし身に覚えのない理由や理不尽な理由で派遣先から戻されて、その上休業手当がもらえない場合は派遣会社にかけあって、それでも払ってもらえない時は労基署に相談するという手があります。
派遣会社はトラブルとなった登録者にはもう仕事をまわしてくれないでしょうから、他の派遣会社を探すことになります。
派遣元が災害で休業した
先に、派遣先が災害などの不可抗力で休業となった場合は、休業手当をもらうことができることをご説明しましたが、派遣元が不可抗力で休業した場合はどうでしょう ?
派遣期間中で派遣先で継続して働いたなら、当然その間の給料は派遣元に請求できます。
でも、派遣元の休業にともなって派遣が打ち切りとなった場合、しかもその理由が災害などの不可抗力であったなら、休業手当をもらうことは難しいでしょう。
おわりに
いかがでしたか ?
派遣社員が休業手当をもらえるケース、もらえないケースについて解説してきましたが、参考になりましたでしょうか ?
ただ、休業手当をもらえるかどうかはケースバイケースのことが多々あります。
もらえないと思っても初めからあきらめないで、先ずは派遣元に相談して、納得がいかなければ労基署か弁護士に相談されると良いでしょう。
弁護士は無料相談を受けているところもありますから、「弁護士 無料相談」で検索してみてください。
最後までお読みくださってありがとうございました。