傷病手当金は退職してももらえるのでしょうか ?
2つのケースがあります。
①傷病手当金をもらって休職中に退職した場合
②退職後にはじめて傷病手当金を申請した場合
どちらも傷病手当金をもらうことができます。
ただし、在職中にもらう場合とは違って、健康保険の加入期間が条件として加えられます。
ここでは傷病手当金は退職してももらえるのか、また、遡って申請することはできるのか、さらに申請方法から額と期間についても、人事総務のベテランがすべてを解説してゆきます。
はじめに、退職するしないにかかわらず傷病手当金をもらえる条件を確認しておきましょう。
傷病手当金の受給条件
傷病手当金の条件は次の4つです。
退職するしないにかかわらず、いずれの場合でも次の条件は必須です。
①原因が仕事以外での病気やケガであること
②働けないこと
③連続する3日間を含む4日以上仕事に就けなかったこと
④休んでいる間に会社から給与の支払いがないこと
特筆すべきは、在職中に傷病手当金をもらう場合は、
健康保険の加入期間は受給条件ではない
ということです。
新入社員でも上の4つの条件を満たせば傷病手当金の支給をうけられるということです。
それぞれの条件についてもう少し詳しくご説明しますね。
原因が仕事以外での病気やケガであること
仕事中のケガや、仕事が原因の病気によって働けなくなったときは、「労災」が適用されますから、傷病手当金の対象外となります。
働けないこと
働けないということは、自己判断では通りません。
医師の判断が必要です。
この点は申請方法のところで説明を加えます。
連続する3日間を含む4日以上仕事に就けなかったこと
傷病手当金をもらうには、4日以上仕事に就かないことが条件のひとつです。
そして4日のうち3日間は連続していることが必要です。
この連続した3日間を傷病手当金の「待機期間」と言います。
この3日間は土日などの公休日でも有給でも構いません。
休んでいる間に会社から給与の支払いがないこと
そして、当然ですが、休んでいる間は会社から給与の支払いがないことが必要条件です。
ただし支払われても傷病手当金の日額より少ない場合は、差額分が支給されますよ。
傷病手当金の支給条件として「休んでいる間に会社から給与の支払いがないこと」とありながら、会社から支払いがあって傷病手当金より少ない場合は差額が支給される。
矛盾しているようで、分かりにくいですよね。
これは、たとえば有給休暇で働かなかったけれども給与が支払われた場合などが該当します。
もしも休職から復職する際に復職プログラムの課程として、例えば1日2時間働いてその分の給料が支払われて、その額が傷病手当金より少なかったら差額が支給される ? いいえ、違います。
働いて少しでも賃金の支払いがあったら、その日は傷病手当金は支払われません。
このあたりは、総務の保険担当者でもしばしば混乱するところです。
賞与をもらったら傷病手当金はもらえないのか ?
もらえます。
年に3回以下の支給なら、休業期間中に賞与を支給されても、傷病手当金を減額されずにもらうことができます。
傷病手当金はいつまでもらえる ?
傷病手当金をもらえる期間は次のとおりです。
傷病手当金は支給を開始した日から通算で1年6ヵ月間もらえます(注)。
2022年1月1日施行の改正健康保険法により2022年4月1日以降は次のように変わりました。
・改正前 : 支給日から起算して1年6ヵ月が経過すると支給は終わり
・改正後 : 支給日から通算して1年6ヵ月支給される
欠勤と欠勤の間に出勤した時期があった場合、受給者に有利になりました。
出典 : 下を参考に記載
厚生労働省リーフレット
たとえば途中で復職して傷病手当金を受けていない期間があったけど、また病気をぶり返して休職してしまった場合は、通算して1年6ヵ月間傷病手当金を受けることができます。
うつ病で求職した人などは、いったん復職しても働きだすと再び症状が出て休職することがあります。
この場合、復職期間は除外されるので、再び休職した場合は通算して1年6ヵ月までは間傷病手当金を受けることができますよ。
傷病手当金はいくらもらえる ?
傷病手当金はいくらもらえるか見ておきましょう。
傷病手当金の日額は、標準報酬日額の3分の2です。
標準報酬日額は、標準報酬月額の30分の1となります。
標準報酬月額とは、毎月の給料の額の等級みたいなものと考えると分かりやすいです。
例えば、
基本給+各種手当が 290,000円 ~ 310,000円なら標準報酬月額は300,000円となります。
標準報酬日額は、その30分の1ですから、この例では 300,000円÷30 = 10,000円となります。
正確には標準報酬月額は1年間の平均で求められますが、ここでは1年間標準報酬月額が変わらなかったと単純化して説明します。
傷病手当金の日額 =標準報酬日額÷3×2=10,000円÷3×2=6,667円
この額に対象期間の日数を掛けます。
仮に待機期間の後18日間休んだのなら
6,667円×18=100,005円が支給されることになります。
ただし、支給期間中に会社からなんらかの支払いがあった場合は支給額が調整されます。
会社からの支給の日額が、傷病手当金の日額より多い場合は、傷病手当金は支給されません。
逆に、傷病手当金の日額より少ない場合は、差額が支給されます。
傷病手当金の額の計算方法は、健康保険法 第99条で定められていますから、健康保険組合によらず同じ計算式が用いられます。
ただ、大会社の健康保険組合では、さらに「加給金」を加算してくれるところがありますよ。
健康保険の加入期間が1年に満たない場合
傷病手当金を計算するときの標準報酬月額は1年間の平均とお伝えしましたが、では健康保険の加入期間が1年に満たない場合はどうなるでしょう ?
次のいずれか低い額を使用して計算します。
①支給開始日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額の平均値
②標準報酬月額の平均値
・30万円(2021年)※
※当該年度の前年度9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額なので、年度によって変わることがあります。
傷病手当金は退職してももらえるのか
それではいよいよ、傷病手当金は退職してももらえるかについてご説明しますね。
冒頭お伝えしたように、次の2つのケースについて解説します。
①傷病手当金をもらって休職中に退職した場合
②退職後にはじめて傷病手当金を申請した場合
順に見てゆきます。
初めに大事な条件をお伝えします。
退職後に傷病手当金もらえる条件として
健康保険の加入期間が資格喪失日の前日までに1年以上継続していること
これが在職中に傷病手当金をもらう場合と異なる点です。
傷病手当金をもらって休職中に退職した場合
求職して療養中だけど、今の職場には復帰しないことにして退職。
まだ療養を続けている場合は、次の条件を満たせば退職後も継続して傷病手当金をもらうことができます。
①健康保険の被保険者期間が資格喪失日の前日までに1年以上継続していること
②退職日までに受けていた傷病手当金の期間が支給開始日から1年6ヵ月に満たないこと
③退職日に労務に服していないこと
注意すべきことは、退職日に出勤しないこと。
退職の挨拶とか手続きで会社に行っても、あくまでちょっと寄っただけで出勤簿とかタイムカードで「出勤」したことになると退職日に労務に服したことになってしまいます。
あと、①の被保険者期間には任意継続の期間は含まれませんからご注意ください。
退職後にはじめて傷病手当金を申請した場合
休職中に傷病手当金の申請をまったくしていなかったけど、退職後に申請したらもらえるのか ?
もらえます。
退職前に受給条件を満たしていて、かつ次の条件を満たしていれば傷病手当金をもらうことができます。
退職日を含んだ在職最後の4日間会社を休んでいること
これは待機期間が3日間あるからです。
最後の4日間の休みは土日などの公休日や有休であってもかまいません。
1日でも出勤すると、退職後に傷病手当金を申請しても受理されませんのでご注意ください。
では、次に傷病手当金を遡って申請できるかについてお伝えしましょう。
退職して任意継続の場合はもらえるか ?
退職して健康保を任意継続とした場合は、傷病手当金をもらえるでしょうか?
次のように4つのケースに分かれます。
退職前から傷病手当金をもらっていた場合
①被保険者であった期間が1年以上ある場合(任意継続期間はカウント対象外)
→ 継続してもらうことができる。
②被保険者であった期間が1年未満なら退職後は任意継続しても傷病手当金はもらえない
→ ただし、退職するまではもらえる
退職後に傷病手当金を申請する場合
③退職前の病気やケガならもらえる
④任意継続期間中に病気やケガをした場合はもらえない
ポイントは、被保険者であった期間と、病気やケガなど、傷病手当金申請の原因となることが、退職前のものかどうかです。
傷病手当金は遡って申請できるか
もともと傷病手当金は、その性質上「事後申請」です。
そして、
2年間遡って申請することが可能です。
傷病手当金の「時効」は健康保険法第193条に2年間と定められているからです。
退職後に申請できるのもこのためです。
ただし、遡って申請する最初の日に働けない状態であったとこを、医師の意見書に記載してもらわなければいけません。
でも2年前ならカルテが残っていますから、大丈夫ですよ。
ここまで退職と傷病手当金の関係、そしてさかのぼっての申請についてお伝えしてきました。
別の病気・ケガで再び休職した場合は傷病手当金をもらえるか ?
病気やケガで休職て傷病手当金を受け取った後、無事仕事に復帰したものの、別の病気で再び休職した場合はどうなるでしょう ?
別の病気・ケガで再び休職した場合は、傷病手当金を再びもらうことがでします。
しかも、1回目の休職とは異なる原因なので1年6ヵ月を超えない範囲で新たに傷病手当金をもらうことができるのです。
ただし、再度3日間の待機期間が発生しますよ。
傷病手当金の申請方法
では次に傷病手当金の申請方法についてご説明します。
傷病手当金の申請方法は次の通りです。
①健保組合や協会けんぽから「申請書類」を取得する
②本人記入欄に必要事項を記入する
③病院で医師に「意見」を記入してもらう
④会社に提出して事業主証明欄に「勤務日数や給与の額」などを記入してもらう
⑤会社が健保組合や協会けんぽに提出する
少し補足しますね。
申請書類の取得
申請書類はインターネットからダウンロードできますし、電話で郵送をお願いしても良いです。
本人記入欄
住所・氏名の他、被保険者証の記号・番号、振り込み指定口座の情報、傷病名などを記入します。
医師の意見
「傷病名」や「労務不能と認められる所見」、診療日などを記入してもらいます。
事業主証明欄
出勤日、欠勤日、公休日や基本給・手当等を記入してもらい、事業主の押印をもらいます。
会社に病気の名前を知られたくない場合
会社に病気の名前を知られたくない人は、先に会社に事業主証明欄を記入してもらってから医師の意見を書いてもらい、最後に本人記入欄を書いて自分で郵送すればよいと思うかも知れませんね。
でも、そもそも休職の申請をする段階で、理由を明かさないわけにはいきません。
理由を言わずに休職したいと言っても通りませんから。
なので、病名を会社に知られるのは必然と思ってください。
毎月申請したらその都度待機期間があるのか
先に、傷病手当金は事後申請であることをお伝えしましたね。
では、療養が終わるまで、あるいは支給期間が1年6ヵ月経過するまでもらえないのでしょうか ?
そんなに待たされたのではたまりませんよね。
早く傷病手当金が欲しい場合は、毎月申請しても良いのです。
そこで気になるのが「待機期間」です。
毎回申請の都度3日間の待機期間分は支給されないのでしょうか ?
大丈夫です。
同一の傷病で申請する場合は、2回目以降「待機」期間はありません。
おわりに
いかがでしたか ?
傷病手当金は退職してももらえるのか、また遡っての申請はできるか、さらに傷病手当金の基本ともいうべき申請方法、支給額と支給期間について解説してきましたが、参考になりましたでしょうか ?
病気やケガで働けないのは辛いですが、傷病手当金が暮らしサポートしてくれます。
しっかり活用してくださいね。
最後にもうひとつ、健康保険の「傷病手当金」とは別に雇用保険から出る失業者のための「傷病手当」というものがあります。
ご参考までに「傷病手当」についてはこちらに詳しくまとめてあります。
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最後までお読みくださってありがとうございました。