退職したとき、失業保険の条件を満たしていれば申請して受け取ることができます。
そしてもし61歳以上なら、誕生日によっては年金を受け取ることもできます。
でも、失業保険を受け取ると年金が減るのではないかと心配ではありませんか ?
じつは「減る」のではなく「停止」されてしまいます。
失業保険と年金は同時には受け取れないのです。
あ、ここで言う「年金」とは「特別支給の老齢厚生年金」のことですよ。
失業保険と年金のどちらも受給要件を満たしているとき、どちらか一方しか受け取ることはできません。
ここでは、失業保険と年金のどちらも受給条件を満たしたとき、いったいどちらをもらえば得なのかについて、解説してゆきます。
特別支給の老齢厚生年金とは
年金の支給は65歳からですが、以前は支給開始年齢が60歳であったことから、支給開始年齢を段階的に引き上げる措置として、65歳前に支給する年金を「特別支給の老齢厚生年金額」と言います。
なお、65歳で支給される年金を「老齢基礎年金」といいます。
何歳からもらえるのか
特別支給の老齢厚生年金は、生年月日によって受給開始年齢が次のように設定されていて、生年月日によっては61歳からを受けることができます。
男性と女性では生年月日の設定が異なっているのでご注意ください。
男性
生年月日(昭和) | 特別支給の老齢厚生年金
受給開始年齢 |
老齢基礎年金受給開始年齢 |
28年4月2日~
30年4月1日 |
61歳 | 65歳 |
30年4月2日~
32年4月1日 |
62歳 | 65歳 |
32年4月2日~
34年4月1日 |
63歳 | 65歳 |
34年4月2日~
36年4月1日 |
64歳 | 65歳 |
36年4月2日以降 | – | 65歳 |
女性
生年月日(昭和) | 特別支給の老齢厚生年金
受給開始年齢 |
老齢基礎年金受給開始年齢 |
33年4月2日~
35年4月1日 |
61歳 | 65歳 |
35年4月2日~
37年4月1日 |
62歳 | 65歳 |
37年4月2日~
39年4月1日 |
63歳 | 65歳 |
39年4月2日~
41年4月1日 |
64歳 | 65歳 |
41年4月2日以降 | – | 65歳 |
もらえる額は
では、「特別支給の老齢厚生年金額」はいったいいくらもらえるのでしょうか ?
特別支給の老齢厚生年金は「年金定期便」に記載されていますよ。
例を載せておきますね。
下の表の赤文字部分です。
受給開始年齢 | 中略 | 62歳 | 65歳~ |
(1)基礎年金 | 老齢基礎年金
663,900円 |
||
(2)厚生年金 | 特別支給の老齢厚生年金
(報酬比例部分)1,026,000 (定額部分)********* |
老齢厚生年金
(報酬比例部分)1,086,000 (経過措置ヵさん部分部分)********* |
この例では、特別支給の老齢厚生年金の年額が1,026,000円ですから、月額では
1,026,000円/年 ÷ 12ヵ月 = 85,500円となります。
なお、上の例では定額部分が********となっていてもらえないことになっています。
定額部分をもらえる人は、下の誕生日に該当する人だけです。
【男性】昭和22年4月2日~昭和24年4月1日
【女性】昭和27年4月2日~昭和29年4月1日
この記事を書いている2020年では上記の方たちはいずれも65歳をこえていて既に老齢基礎年金に移行していますから、ここでは説明を割愛させて頂きますね。
じつは、報酬比例部分の算には根拠となる式があります。
ご参考までに掲載しておきますが、この式は無視してくださって結構です。
報酬比例部分
= 2003年3月までの平均標準報酬月額 x 乗率A/1000 x 加入月数
+ 2003年4月以降の平均標準報酬月額 x 乗率B/1000 x 加入月数
標準報酬月額(注)を二期に分けて計算し、生年月日によって2つの乗率がそれぞれ変わるのですから実に面倒なので、ご自分で計算する必要はありません。
だいたい何年も過去にさかのぼっての標準報酬月額を確認することは普通の人にはムリです。
年金事務所には厚生年金保険料を支払っている人の過去からのすべての記録があるから算出できることなのです。
(注) 標準報酬月額とは、社会保険料を簡単に計算するために、毎月の給料などの報酬の月額を区切りのよい幅で等級分けしたものを言います。
年金をもらえる年齢の失業保険の額は
それでは次に失業保険をもらうとしたら、いくらもらえるのか確認しておきましょう。
60歳から64歳の場合は、賃金日額から基本手当日額を下の表で計算します。
[離職時の年齢が 60~64 歳]
賃金日額(円) | 給付率 | 基本手当日額(円) |
①2,500 円以上 5,010 円未満 | 80% | 2,000 円~4,007 円 |
②5,010 円以上 11,090 円以下 | 80%~45% | 4,008 円~4,990 円 (※1) |
③11,090 円超 15,890 円以下 | 45% | 4,990 円~7,150 円 |
④15,890 円(上限額)超 | – | 7,150 円(上限額) |
給付率が変動する場合は次の計算式によって算出します。
※1次のいずれかの低い方
・基本手当日額 = 賃金日額 x 80% – 賃金日額 x (賃金日額-5,010)/6,080) x 0.35
・基本手当日額 = 賃金日額 x 50% + 4,436
仮に基本給+手当(役職手当・扶養手当・残業代など)が月額390,000円としてみましょう。
賃金日額は390,000円/月x 6ヵ月÷180日 = 13,000円/日
これは上の表の③に該当します。
基本手当日額
= 賃金日額 x 45%
= 13,000円 x 45%
= 5,850円
これが定年退職時に月額390,000円もらっていた人がもらえる失業保険の日額です。
この場合だと、失業保険の額を1ヵ月に換算すると
5,850円/日 x 30日 = 175,500円
特別支給の老齢厚生年金と失業保険はどっちが得
上の例では次の例では、
特別支給の老齢厚生年金 = 85,500円
失業保険 = 175,500円
明らかに失業保険の方が得ですね。
失業保険をもらい終わってから年金をもらうのが賢いやり方と言えるでしょう。
ただし、失業保険は4週間ごとにハローワークに求職活動の報告をして認定を受けなければなりません。
あと、失業保険には受給期間が定められていますので、いつまでももらえるわけではありません。
年金をもらえる年齢の失業保険の受給期間
会社には本来、60歳の定年を過ぎても65歳まで雇用する義務があります。
継続雇用を本人が断って退職したか会社の都合で継続雇用してもらえなかったかで失業保険の受給期間は異なります。
定年退職の場合
60歳で普通に定年退職した場合は「自己都合」と見なされます。
理由は、60歳定年であっても会社には65歳まで継続雇用の義務があるので、その継続雇用を断って退職したのは、自己都合となるからです。
雇用保険加入期間 | 失業保険支給期間 |
1年以上10年未満 | 90日 |
10年以上20年未満 | 120日 |
20年以上 | 150日 |
継続雇用してもらえなかった場合
次に、本人は定年後も働く意思があるのに継続雇用してもらえなかった場合の給付日数です。
会社には継続雇用の義務があっても業績の悪化など、何らかの理由で継続雇用されなかった場合は、「特定受給資格者」として、7日間の待機期間のあと28日ごとに失業保険を受給することができます。
しかも自己都合ではないので、最長240日間もらうことができます。
6ヵ月以上1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
継続雇用制度があるにも関わらず定年退職した場合に比べて、働きたいのに継続雇用してもらえなかった場合は、最長240日間も失業保険を受けることができるのです。
おわりに
失業保険を受け取ると年金が減るのか、また、受け取るなら失業保険と年金のどっちが得なのかについてお伝えしてきましたが、参考になりましたでしょうか ?
最後にまとめておきますね。
・失業保険と年金は同時にはもらえない
・失業保険を受け取るとその間年金は停止される
・失業保険は雇用保険の加入期間によって額と期間が決まる
・定年時の給与の額によっては失業保険の方が年金より得
失業保険も年金も、定年後の大事なお金ですから、損をしないようにしっかりご確認くださいね。
最後までお読みくださって有難うございました。