退職のとき、誓約書を求められたら拒否できるのか ?
退職が決まっていよいよ手続きとなったとき、突如言われた「誓約書に捺印して」。
「えっ? 何これ ?」
そこにはこんなことが書かれていました。
・在職中に知り得た機密情報を他に漏らしません。
・同業他社に就職しません。
・自ら同業で起業しません。
・これらに従わなかったときは損害賠償請求に応じます。
こんなのってあり ?
会社を辞めたらどこに勤めようと勝手でしょう !
と思いませんか ?
でも、裁判では誓約書に従って損害賠償を命じられる例があるのです。
結論を言います。
・誓約したら法的効力が生じることがある
です。
ここでは、誓約書を求められたら拒否できる理由、誓約書の効力、そして不利にならないためにはどうしたら良いかについてお伝えしたいと思います。
退職のとき誓約書を拒否できる理由
本来、憲法第22条では職業選択の自由を定めています。
ですから、退職後に競業他社に就職することは自由なのです。
これが誓約書を拒否できる理由。
ただし、誓約書に署名捺印したら、内容に「同意」したことになります。
そして誓約書の内容が妥当性のあるものなら効力を持つのです。
では、どんな内容なら効力が生じるのか ?
次の章でご説明します。
退職時の誓約書に効力が生じるケース
誓約書の内容が次の2つであれば、効力が生じるケースが多いです。
・機密の守秘義務
・競業避止義務
順に確認しましょう。
機密の守秘義務
これは当然のことです。
企業特有の技術や仕入れ先、顧客のデータは、他社に知られたくない機密です。
これらを退職したあとも他からもらさないことは、社会通念から見ても妥当性があることは納得できると思います。
これらに加えて従業員の個人データも個人情報保護の観点から漏らしてはいけません。
競業避止義務
問題は競業避止義務です。
憲法22条で職業選択の自由が保障されているのに、同業他社に就職できないのはおかしいと思いますよね。
じつは競業避止義務は合理的な理由があれば認められるのです。
それは、次のようなケースです。
①競業を制限する必要性がある
②競業制限の期間が定められている
③競業制限の場所的範囲が定められている
ただし、ケースバイケースで一概には言えません。
まんいち裁判になった場合に「有効」と判断されやすいということです。
競業を制限する必要性がある
その会社独自のノウハウがあって、他社で使われては困る場合、「○○を製造する同業他社には就職しません」のように、特殊なノウハウを守るという必要性が認められる書き方をしていれば有効となる可能性が高いです。
競業制限の期間が定められている
「退職後1年間は同業他社には就職しません」というように、期間が定められている場合も有効となる可能性が高い。
ただし、期間が長い場合は本人に必要以上に不利益を与えるとして、無効となります。
一般的には退職後1~2年であれば有効となり、退職後3年間以上は無効とされることが多いようです。
競業制限の場所的範囲が定められている
県内など、特定の地域のみで営業している会社が「○○県内の同業他社には就職しません」という誓約書を書かせた場合は有効となります。
逆に言えば上記3つのどれかが満たされていなければ、その誓約書は無効となります。
業界が狭い場合は要注意
狭い業界だと転職先を知られてしまい、かつ客を抜かれたとなると元の会社は黙ってはいないでしょう。
例えば「美容室」などではありがちな例です。
元のお店のすぐ近くに同じように店を出す。
これではお客を取り合うことになります。
そういう場合は、退職後何年間は半径何メートル以内に同業の店を出してはいけないという競業避止義務が認められます。
立場によって効力は異なる
部長職や取締役などの重職に就いていた場合は、会社の機密を知り得る立場にありますから、退職後の競業避止義務は一般社員に比べてより厳しく守ることが妥当と解されています。
なので、まんいち元の会社に競業避止義務として訴えられれば負ける可能性が高くなります。
競業制限に対する代償がある場合
再就職先を制限する代わりに特別に退職金を加算するとか、会社が何らかの代償を提供する場合は競業避止義務が有効と認められる可能性が高くなります。
退職者が受ける不利益を補償することで、競業避止義務に合理性を持たせることになるからです。
退職のとき誓約書を拒否すべきケース
既に述べた通り、誓約書は本人が同意しない限り提出する必要はありません。
会社は本人の意思に反して誓約書の提出は強制することは出来ないのです。
特に拒否すべきケースを上げておきます。
既に次の就職先が決まっている場合
再就職先が同業他社に決まっているのに「同業他社には就職しません」という誓約書を出す必要は全くありません。
へたに提出したらあとが厄介ですから、断固拒否です。
ただ、機密保持だけの誓約書であれば出してもよいと言えば、歩み寄りとなるのでもめずに済む可能性がグッと高まりますよ。
たいていの会社の対応は ?
だいたい、退職した人がどこの会社に就職したかなんて、前の会社が調査することはまずありません。
そこまで暇ではありません。
会社としては、辞めた人がどこに行こうが知ったことではないのです。
多くの人は同じ業界で再就職するでしょう。
たいていの会社にとって、「誓約書」はあくまで会社としては「保険」なのです。
目的は
・企業秘密を守る
・個人情報や顧客情報を守る
・誹謗中傷を防ぐ
ただ、業務を通じて本人に蓄積されたノウハウは本人のものです。
特許を盗むとか、会社独自のノウハウでない限り、前の会社で学んだ仕事の仕方、身に付けたスキルはあくまで本人のものですから、それを禁止することはできません。
入社時の誓約に注意
もうひとつ、注意すべきことがあります。
会社によっては入社時に誓約書を提出させるところがあます。
機密保持だけでなく、
「退職後、同業他社には就職致しません。」
という内容を盛り込んだ誓約書を入社の際に提出させるのです。
さすがに入社のときは辞めることを考えていないでしょうからたいていの人はあまり考えずに誓約書に署名・捺印をしてしまいます。
でも、たとえ入社時にこのような誓約書を提出させられていたとしても、上で説明したように合理性のないものは「無効」ですから心配はいりません。
注意することは、期間と地域などを本人に過度の不利益を与えない範囲で記載している場合です。
退職の意志を固めているのでしたら、入社時に誓約書を出していないか総務・人事の人にそれとなく聞いた方が良いです。
総務・人事の人が「なぜ、そんなことを聞くのか」と言ったら「いえ、ちょっと気になっただけです。」とはぐらかしておきましょう。
おわりに
いかがでしたか ?
退職の際の誓約書についてお伝えしてきましたが参考になりましたでしょうか ?
誓約書を提出する義務はなく、拒否できることをお伝えしましたが、拒否したために離職票をなかなか送ってくれないなどの嫌がらせをされる可能性もあります。
ただ、離職票の提出は会社の義務ですから、労基署に言えば提出させることができます。
そうはいっても、可能な限り「円満退社」したいですよね。
機密の守秘義務やゆるい競業避止義務であれば誓約書を出しても問題はありません。
そのあたりはご自分の状況や現職での役職などを考えてご判断くださいね。
最後までお読みくださってありがとうございました。